クーラーの壊れた、散らかった畳の部屋で一人。扇風機をつけて、ごろんと大の字に寝そべる。じわりと汗。テーブルの上にはスイカの皮、空っぽのコップ、丸めたちり紙と液体ムヒ。畳の上にはスイカの種が一粒落ちている。
暑すぎて何も考えられずに、窓から見える景色を観る。洗濯物、葉っぱ、電線、青い空。と、青い空の中に、キラキラと光る細い線が見える。三本。なんだあれは。風が吹くとキランキランと彗星のしっぽみたいに線が光る。彗星のしっぽなんか見たことないけど。
キラキラと、綺麗なことよ。食べたらなんか甘そうな気がする、何かの砂糖菓子みたいに。光の角度によって、そいつらは一瞬で姿を消す。
暑すぎるから、ずっとその光を観てる。しばらくして、あぁあれは蜘蛛の糸だ、と理解する。暑すぎるから、別にあいつらがなんだって綺麗なら構わないという気持ちになっている。
あぁ、綺麗だ。そして今、あの光の線を見ているのは宇宙でただ一人、散らかった部屋の畳の上で大の字になっているこの私だけなのだ。なんと贅沢なことよ。お金払ったって、誰もこの景色は見れないんだから。この景色見たい人は連絡くださいなんて言ってる間に日は暮れて、もうあの光はなくなっているのだ。
私の目の前には、私の知らん間に完璧な私だけの世界が広がっていて、そこかしこに美しさは隠れている。そこにあるのは、ただただ、美しい、と私が感じる現象だけ。気付かなかったら無いも同じ。意味なんかない。価値なんてのもない。誰にもわからない。私しか分からない。
なんだか不思議だな。
なんだか不思議だな、って書くところで、なんだかふじきだなって入力してた。藤木は卑怯なんかじゃないよな、と思った。